日本と世界のバラ
日本にも野生のバラは16種類ほど存在していますが、観賞を目的とするために栽培されていたバラの記録は、中国から伝えられたコウシンバラが始まりと言われています。
バラに関連したことが書かれているもので日本最古の文献は、奈良時代の721年頃作られた上陸風土記に、『うばら』と記され、日本最古の和歌集である万葉集には、『うまら』、平安時代に作られた古今和歌集には『さうび』と記されています。
中国のバラは音読みで「さうび」と呼んでおり、この頃には中国のバラが日本に存在していたことが推測されます。中国ではコウシンバラを、月を追いかけて年中咲き続ける花という意味の月季花(げっきか)や長春花(ちょうしゅんか)と呼ばれています。
平安時代に枕草子により随筆された枕草子や紫式部の長編物語の、源氏物語にも「そうび」と記され、藤原定家の日記である明月記には「長春花」とあり、コウシンバラ(月季花)のことが記されています。
絵画では鎌倉時代、藤原氏の氏神である春日大社の由来と霊体験を描いた絵巻物『春日権限験記』に月季花が描かれています。
江戸時代になると数々の園芸書が出版され、約2000種の植物を解説した、日本初の植物図鑑「本草図譜」では、当時の日本に存在したバラなど見ることができます。
明治5年の1872年には政府が1000本のバラ苗を輸入したという記録があり、1877年の「各国薔薇花鏡」には中国で古くから信仰されていた名をもつ、ティー・ローズの西王母(サフラノ)等の名が見られます。これが日本人と西洋のオールドローズの最初の出会いと言われています。
万葉集
「道のへのうまらのうれにはほまめの、からまる君をはかれかゆかむ」で「うらま」の記述があり、妻との別れの心情を詠んだ悲しい歌です。
この「うまら」はトゲのあるつる状植物を指しており、現在私たちが想像するバラとは違い、バラはもともとトゲに着目した名前や言葉でつる草を指していたとされています。
長崎グラバー園
長崎県にある観光施設のグラバー園内にある国指定重要文化財となっている、1865年に建築された旧オルト邸では、樹齢100年を越すといわれる日本最古で最大のモッコウバラを見ることができます。
世界のバラ
日本に野生種のイノバラやハマナスがあるように、世界にも、バラの野生種が存在しています。野生種からの突然変異と考えられるロサ・ガリカ・オフィキナリスが、ヨーロッパで香料や薬用に栽培されるようになり、オールドローズの歴史は始まりました。野生種との交雑種も栽培されるようになり、数多くの品種が生まれ、美しさだけでなく香りを楽しむためのバラへと徐々に変わっていきました。香料生産において現在はダマスク系のバラを用いることが多いですが、もともとは、ロサ・ガリカ・オフィキナリスが使われていました。
18世紀の終わりから19世紀初めにかけてはヨーロッパに中国からチャイナローズが導入されたと言われています。バラを愛したナポレオン妃ジョセフィーヌが亡くなった後もバラの人気は衰退することなく、ヨーロッパの庭園の中枢的存在であり続けました。
4つのチャイナローズ
ヨーロッパに導入された中国の代表的な4つのチャイナローズ
・スレイターズ・クリムズン・チャイナ
ヨーロッパのバラには鮮やかな赤い色をしたバラはもともと存在していませんでした。
・オールド・ブラッシュ(別名パーソンズ・ピンク・チャイナ)
・ヒュームズ・ブラッシュ・ティーセンテッド・チャイナ
・パークス・イエロー・ティーセンテッド・チャイナ
ヨーロッパのバラにはなかった四季咲き性、剣弁高芯といわれる花型、爽やかな香りと濃い赤の花色のバラは熱烈な支持者を夢中にさせました。新しく導入されたバラを使った育種が熱意をもって取り組まれ、ヨーロッパのバラの世界に大きな変化が生まれました。
【日本のバラ】
「ロサ・ムルティフローラ」
和名はノイバラ。日本全国に自生し、朝鮮半島や中国北部に分布しています。
房咲きという性質が現代バラにも生かされた重要な野生種で、現在のポリアンサ系、フロリバンダ系の生みの親となっています。丈夫で強い性質から、日本ではバラの台木としても使われてきました。黒星病に強く、無農薬でもよく育ち、秋にはたくさんの実をつけます。
「ロサ・ルキアエ」
和名はテリハノイバラ。
ノイバラとならぶ日本を代表する野生バラ。主に海岸や川原など明るい草地でみられますが、海岸から離れた日当たりのよい建物がない土地や下流の川原などにもみられることがあります。6月~8月頃に咲き、乳白色で水平に花弁が開きます。19世紀末ノイバラの次にフランス、アメリカに導入され、つる性バラの改良には不可欠な交配親の野生バラとして重要な役割を果たし世界から評価され人気を集めました。
「ロサ・ルゴサ」
和名はハマナス。
東アジアの温帯から冷帯気候の地域に存在しています。日本では北は北海道、南は鳥取県の海岸に自生しています。スパイシーな香りが特徴。ビタミンCが豊富といわれている、大きなローズヒップは、食用、薬用として利用されてきました。
「サンショウバラ」
学名をロサ・ロクスブルギィ・ヒルトゥラといいます。 他の日本原産のバラは多数の小葉に分かれる野生種はなく、小葉が9~19枚と多いのが特徴です。葉がたくさんの小葉にわかれるサンショウの葉に見えることから、サンショウバラと呼ばれています。富士・箱根地域の温帯と冷温帯のあたりに自生しています。日本の自生 バラの中ではたいへん大きくなり、高さ5~6mほどになります。開花まで数年を必要としますが、耐病性に強く丈夫です。
「ロサ・ムルティフローラ・ワトソニアナ」
和名はショウノスケバラ。
日本のノイバラの仲間で、1cmほどの最も小さな白い花の原種です。枝は細く横張り性で葉は、ヤナギのように細くバラとは思えない容姿を持っています。気候条件によっては花弁が淡ピンクになることもあります。
「ロサ・ムルティフローラ・アデノカエタ」
和名はツクシイバラ。
日本では四国・九州地方に分布し、中国中西部や朝鮮半島にも存在しています。ノイバラの変種。花弁にはピンクのぼかしが入り上品さを感じます。秋には直径1cmほどの丸い実をたくさんつけます。ノイバラと比べると花は直径3~5cmほどと大きく、伸長力が旺盛です。
「ロサ・サンブギナ」
和名はヤマイバラ。
日本の東海地方、四国・九州地方に分布しています。茎は丈夫で強いつるとなり、地上から離れた樹木の最上部で花を開くことが多いです。花は直径3~5cmほどになり、葉は長さ10cmになります。
「ロサ・マレッティー」
和名はカラフトイバラ。
日本の寒冷地、北海道や本州中部の山岳地帯に自生しています。
ピンクの花は、花後、1.2cmほどの細長い形の果実をつけます。トゲは少なく、赤茶色の枝は細い小型のシュラブ系です。
「ロサ・オノイエ」
和名はヤブイバラ。
近畿地方、四国、九州に自生しています。関東地方、四国、九州の山地や林などに自生するバラをモリイバラ、本州の宮城県から愛知県の東海地方の乾いた土地に自生するバラをアズマイバラと区別されています。
【中国のバラ】
中国は野生バラの宝庫といわれています。60種類以上の自生種があり、そのバラの多くは 四川省を中心に存在しているそうです。
バラ栽培の歴史も古く、数多い中国のバラが存在する中でも世界のバラに大きな貢献をしたのはコウシンバラといっても過言ではありません。
「ロサ・キネンシス」
中国南部、四川省に広く存在しているモダン・ローズの生みの親となったバラ。日本ではコウシンバラと呼んでいましたが、チャイナローズとも呼ばれています。
このバラがあったからこそ、現在の四季咲き性バラが存在してるといえるほど、コウシンバラのもつ四季咲き性の性質は、ヨーロッパのバラに大きな変化を与えました。
日本には江戸時代またはその前より持ち込まれたと考えられています。
「ロサ・ギガンティア」
中国西南省に存在しています。コウシンバラに次いで現代バラの育成に重要な役目を果たしました。フルーティーな香りを感じることができます。コウシンバラとの品種改良で、ティー・ローズが誕生しました。また、ロサ・ギガンティアとの交配では、剣弁高芯咲きのバラが誕生しました。外側の花弁の先が裏側に折れ曲がる咲き方は、バラの花を上品に感じさせました。
「モッコウバラ」
中国雲南省、四川省、河南省などに存在しています。枝にはほとんどトゲがないことが特徴。東アジアのバラの魅力をヨーロッパの人々に伝えたバラの一つです。白花と黄花があり、1870年に最初に発見されたモッコウバラはスミレに似た香りがある白花の八重咲きでした。モッコウバラの日本への渡来は江戸時代の中期頃、キモッコウは明治時代に入ってからだといわれています。
「ロサ・キネンシス・ミニマ」
四季咲きのコウシンバラの突然変異により生まれた、背丈は20cmほどの低い品種。ミニチュアローズの祖となったバラです。
「ロサ・ダビデ」
中国四川省の原産。一重平咲きで薄ピンクの花弁は幅が広く、花芯もよく目立ちます。大きなとっくり型の実をたくさんつける個性的な原種で、生育は旺盛。
「ロサ・アネモネフローラ」
ポンポン咲きで小輪の花は、中心の細長い花弁を、外側の大きな外弁が中を包み込むように咲きます。たくさんのバラがある中でも個性的な容姿をしています。トゲは少なく細い枝が、株もとから四方に別れて広がります。
「ロサ・キネンシス・アルバ」
蕾は紅をさしたかのように赤くなり、咲き始めは花びらの端がピンクががり優雅さを感じます。花つきがよく、広い範囲にびっしりと開花します。つるバラとしても活用できます。日本では「白長春」と呼ばれ古くから栽培されていたようです。
「ロサ・キネンシス・ブッシュ」
四季咲き性の特性をもつコウシンバラの中でも基本的な種のひとつです。鮮やかな紫みの赤色の花弁は、外側が少し反り返り、花壇での栽培や枝を伸ばしてアーチ仕立てとしても利用できます。
「ロサ・ユゴニス」
琥珀を含む淡黄色の優しい色味をした花です。病害はほとんどなく、自立して育ちます。 最も早く咲く品種のひとつです。
「ロサ・モエシー」
バラの原種のなかでは珍しい赤い色をしています。濃く鮮やかな赤色の花弁に金色の雄しべがよく目立ちます。背丈は高く、300cmほどで、株立ち状になります。
「イザヨイバラ」
花弁は多いですが完全な円形にはならず、満月が少し欠けたように丸い花の緑が欠けることから「十六夜(いざよい)」と名づけられました。完全自立型の横張りの木になり、病害虫の被害がほぼない丈夫な品種。サンショウバラの八重咲き品種と考えられています。
【ドイツのバラ】
「フリューリンクスモルゲン」
8cmほどの一重咲きのピンクの花弁は、中心が薄い黄色になります。早咲きで、丈夫で強くつる状に伸びます。耐寒性、耐病性に強いです。
「フラウ・ダグマー・ハストラップ」
一重咲きの柔らかい桃色をした可愛らしい花弁。横に広がって上がる株やプリーツのような葉脈など、ハマナス系らしい品種。秋までよく咲き、赤く立派な大きな実をつけます。丈夫で強いですが、梅雨以外はハダニには特に注意を払います。
「コンラッド・フェルディナンド・マイヤー」
花形は開くにつれてカップ状になります。花弁は多く重なり柔らかい雰囲気を感じます。黒星病に弱く、トゲも多いため扱いにくいですが、魅力的な香りや花の形は人気のバラです。
「シュネーコッペ」
別名スノー・ペイブメント。
カップ咲きで、素敵な芳香があります。澄みわたったような淡い紫ピンクをした花弁に繊細さを感じます。繰り返しよく咲き、ほどよく生育します。耐病性に優れており、丈夫で育てやすい品種です。
「シュネーツベルグ」
半八重咲きで、純白の小さな花が房になって咲き、黄色い花芯に目が引きつけられます。花つきもよく繰り返し咲き、耐寒性が強いです。つる状ですが極度に伸びすぎないので、鉢栽培もすることが可能です。
【フランスのバラ】
「ファンブリアータ」
花弁は白色に淡いピンクが散りばめられたような色合いです。花びらの端にカーネーションのような切れ込みが入る可憐な花で、葉色も明るく美しいです。枝はかたく自立し、病気や寒さに強いです。
「ブラン・ドゥブル・ドゥ・クベール」
純白で外弁は大きく、内弁は小さな平咲きの繊細な花。ハマナスとの交雑種で、直立性の樹形やしわのある葉などの特性がよく似ています。半八重平咲き性で、強い香りを感じることができます。
「ソレイユ・ドール」
金太陽の和名をもつ、黄色系のハイブリッド・ティーの作出に大きな功績を残した品種として有名です。半つる状で鋭いトゲがあります。黒星病にかかりやすいため、薬剤散布が必要不可欠ですがロゼット咲きでオレンジ色の花弁は花つきがとても良いです。
「ロズレ・ドゥ・ライ」
ロゼット咲きの鮮やかな濃い紫ピンク色で香りが大変良く見た目と香りで楽しむことができます。トゲが多く、横張りぎみに盛んに生育しますが、ハダニに注意が必要です。寒冷地でもよく育ちます。
【イギリスのバラ】
「スタンウェル・パーペチュアル」
ロゼット咲きの白色に近い淡いピンクの花は咲き進むと混色し、丸いボタンのように見えます。枝は半横張りに伸びるので、フェンスなどへの誘引や鉢栽培をすることが可能です。花つきがよく、春以降も返り咲き、香りも良いです。
「レディ・ペンザンス」
一重平咲きでサーモンオレンジやサーモンピンクと呼ばれる色をした花で、中心が黄色になります。花つきがよく樹勢が旺盛なので、壁面など目立たせたい箇所にも素敵だと思います。比較的早咲きで、葉にとてもよい香りがあるのも特徴です。
「ロード・ペンザンス」
一重平咲きで黄色みを帯びた淡いピンクの花弁と淡い黄色の花芯に優雅さを感じます。早咲きで葉によい香りがあります。
「ノヴァ・ゼンブラ」
白色の花弁に中心は薄ピンクのカップ咲きです。強健で、耐寒性、耐暑性に優れており、育てやすい品種です。コンラッド・フェルディナンド・マイヤーの枝変わりで、すばらしい芳香があります。
【アメリカのバラ】
「ロサ・ニティダ」
一重平咲きのピンクの花を咲かせる北アメリカの野生種です。樹高150cmほどで伸びすぎず、病害もほとんどないため育てやすい品種です。枝はやわらかい毛のようなトゲで覆われている特徴があります。
「サラ・ヴァン・フリート」
丸弁カップ咲きで、ピンクの大輪の花を咲かせます。香りがよく、比較的よく返り咲きます。耐寒性、耐暑性に優れている品種です。
「ロサ・ウッドシー・フェンドレリ」
一重平咲きで、9cmほどの大きな青みがかった紫よりのピンクの花を咲かせます。 花が咲き終わると赤く丸い実をつけますが、ローズヒップティーにも用いられます。
【アイルランドのバラ】
「ロサ・ヒベルニカ」
ピンクの一重平咲きの小ぶりの花を咲かせます。病害虫の被害も少ないため育てやすい原種です。花弁だけでなく明るい緑の葉にも可憐さを感じます。枝ぶりは繊細で、庭木や鉢栽培に向いています。
【オランダのバラ】
「ニベルツ・ホワイト」
一重平咲きで、白色の花弁に薄黄色い花芯が素敵なバラです。返り咲き性で夏までは花を咲かせ、その後堂々たる赤い実をつけます。白ハマナスに似ていますが、やや花弁が細いです。
「エフ・ジェー・グルーテンドルスト」
ロゼット咲きで、つやのある赤色が魅力的です。カーネーションのような切れ込みのある他とは異なった花弁が特徴的です。花もちもよく病害虫に強く剪定し樹形を整えて楽しみます。
【カナダのバラ】
「アグネス」
八重咲きでレモンイエローの花弁は中心がやや色が濃く感じます。一季咲きで香りが良く、 樹形は直立性で、旺盛に伸長するので、広い場所での栽培向きです。